アトツギベンチャーの先進事例2つ

アトツギベンチャーは事業承継の新しい考え方だが、すでにイノベーションを形にしている企業も存在する。ここからは、北海道経済産業局が公開している事例の中から、参考にしたいアトツギベンチャーの先進事例を紹介しよう。

事例1.研鑽を積んだアトツギが既存事業とデジタル技術を融合/アイビック食品

北海道札幌市のアイビック食品は、2021年にデジタル技術を駆使した食品施設「GOKAN~北海道みらいキッチン~」を創設した。同施設は、商品開発の打ち合わせやイベントなどに活用されている。

同社はもともとDX事業を手がけていたわけではなく、アトツギの次男が会社に入ったときには、主力商品のブームが終わって殺伐としていた。従業員がひとつのメールアドレスを共有し、伝票も手書きで作成するなど、社内の基本業務にも多くの問題があったという。

事態が好転したのは、アトツギが経営塾や未来塾に通い、経営に対する意識を変えてからだ。社長の就任から1年後、アトツギは既存事業である食品製造業の基盤を活かして、デジタル技術を駆使した食品施設を創設。現在、同施設は北海道の食のDX拠点として機能している。

参考:経済産業省 北海道経済産業局「アイビック食品(株)[札幌市]|「アトツギベンチャー」インタビュー

事例2.MVVや管理会計の整備で、地域のゼブラ企業に成長/神馬建設

北海道浦河郡の神馬建設は、地方豪族型アトツギにあたるアトツギベンチャーだ。先代は経営と現場を両立していたが、アトツギが社長に就任したことをきっかけに、トップダウン禁止の組織化を目指した。

古い慣習が残る建設会社では、引き受ける業務が曖昧であったり、管理会計がどんぶり勘定になっていたりするケースが珍しくない。神馬建設も同じような状態だったが、同社のアトツギはセミナーやコンサルを積極的に活用し、社内のMVV(※)や管理会計を整備した。

(※)ミッション・ビジョン・バリューの略語。

結果として、同社はゼブラ企業としてのポジションを確立し、地域になくてはならない存在となっている。

参考:経済産業省 北海道経済産業局「(有)神馬建設[浦河町]|「アトツギベンチャー」インタビュー

アトツギベンチャーは今後も注目される可能性が高い

中小企業の後継者難はしばらく続くことが予想されるため、アトツギベンチャーはさらに注目される可能性が高い。このままのペースで成功事例が増えていけば、国・自治体による支援が充実することも考えられる。

高齢の中小経営者にとっては有効な選択肢となり得るため、引き続き最新情報をチェックし、事業承継の計画に組み込んでみよう。

文・片山 雄平
1988年生まれのフリーライター兼編集者。2012年からフリーライターとして活動し、2015年には編集者として株式会社YOSCAに参画。金融やビジネス、資産運用系のジャンルを中心に、5,000本以上の執筆・編集経験を持つ。他にも中小企業への取材や他ライターのディレクション等、様々な形でコンテンツ制作に携わっている。

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