夫婦間の贈与税はどんな場合に発生する?10個の事例で解説
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目次

  1. 贈与税とは?
  2. 夫婦間の贈与にも贈与税が発生する?
  3. 無申告での夫婦間の贈与はバレる?
  4. 夫婦間贈与でできる節税対策
  5. 配偶者控除で贈与税を節税するための手続き
  6. 贈与税の配偶者控除で相続税も節税できる場合がある
  7. 夫婦間の贈与は金額や方法を加味して適切に

生活をともにする夫婦の間では、現金のやり取りや不動産の所有権の移転など多くの場面で財産を贈与することがあるでしょう。

日常的な財産の授受であっても一定額以上となる場合は、贈与税がかかる可能性があります。贈与税の知識がなく知らずに申告や納税ができていないと、ペナルティが科されるため注意が必要です。

本記事では、夫婦間の財産の贈与について、どのような場合に贈与税がかかるのかを10個の事例をもとに解説します。

贈与税とは?

贈与税とは、個人から個人に財産を無償で与える際に課される税金のことです。贈与においては、財産を与える側は「贈与者」、受け取る側は「受贈者」と呼ばれます。

贈与税は、1月1日~12月31日までの期間に行われた贈与を対象として、受贈者に支払いの義務が発生するのが原則です。贈与税の納税義務が発生した受贈者は、税務署に申告のうえ、納税を行わなければなりません。

万が一期間内に申告や納税ができなかった場合は、申告漏れや脱税に該当して加算税や延滞税、刑事罰の対象となり得るため、注意しましょう。

贈与税の課税対象となる財産には、現金に加えて株式や不動産等も含まれますが、贈与税が非課税になる特例もあるため、必ずしもすべての贈与に対して贈与税が発生するわけではありません。

夫婦間の贈与にも贈与税が発生する?

贈与税は、個人から個人へ財産を無償で与える際に課される税金のため、夫婦間の贈与でも原則発生します。

ただし贈与する財産の種類や金額などの条件によっては、控除の適用によって支払税額がゼロになったり、課税されなかったりする場合もあります。

しかし基本的に夫婦間での財産のやり取りには、贈与税がかかる点は押さえておきましょう。

事実婚の場合、贈与税はかかる?

内縁の妻・夫のように婚姻届を出していない事実婚の場合も、法律婚と同様に贈与税がかかります。

また基本的に事実婚も民法規定の準用を受け、一定程度は法律婚と同等の法的な扱いを受けるため、日常生活において必要な生活費などのやり取りについては事実婚の場合であっても法律婚と同様に贈与税がかかりません。

加えて、事実婚かどうか関係なく個人間の贈与の場合は110万円の基礎控除の適用を受けられます。

そのため年間の贈与額の合計が110万円以下であれば贈与税はかかりません。ただし事実婚の場合は、税法上の優遇措置が受けられない点に注意が必要です。

例えば婚姻期間20年以上の夫婦間で居住用不動産またはその購入資金の贈与があった場合に2,000万円まで非課税になる「夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除」という特例は、事実婚に適用されません。

夫婦間の贈与で贈与税がかかる5つの事例

夫婦間の贈与で贈与税がかかる事例は、以下の5つです。

夫婦間の贈与で贈与税がかかる5つの事例
1.年間で110万円を超える財産の贈与があった
2.日用品ではない高額な物品の贈与があった
3.へそくりで金融資産や高額物品などを購入した
4.自ら保険料を支払っていない保険金を受け取った
5.自らの持ち分を超えて不動産の取得費用を負担した

1.年間で110万円を超える財産の贈与があった

その年の1月1日~12月31日までの1年間に贈与された財産の合計額が110万円を超える場合、110万円を超える部分に対して贈与税がかかります。

贈与税額は、以下の計算式によって算出されるため、1年間の贈与財産の金額が基礎控除額の110万円を超える場合に贈与税が課税されるということです。

贈与税額=(贈与財産の金額-基礎控除110万円)×税率-控除額

2.日用品ではない高額な物品の贈与があった

不動産や有価証券、自動車、骨とう品、貴金属など、日用品ではない高額な物品を贈与した場合、基礎控除額の110万円を超える部分に対して贈与税がかかります。

例えば誕生日や記念日などに150万円のアクセサリーを配偶者へプレゼントした場合、40万円に対して贈与税が課税されるということです。

ただし日用品か嗜好品かの判別は難しいため、ケースバイケースの判断となります。

例えば、すでに自家用車を持っているなかで高級車を夫が全額出して買い、妻の名義にする場合は贈与とみなされて贈与税が課税される可能性があります。

贈与税が課税されるのは、購入して贈与する場合だけではなく、購入するための金銭を贈与した場合や名義変更した場合も含まれる点も押さえておきましょう。

不動産や自動車などの名義変更を行う場合、直接的な金銭の授受はありませんが贈与の対象となります。勘違いしやすい内容のため、注意が必要です。

3.へそくりで金融資産や高額物品などを購入した

夫から妻に生活費として毎月渡していたお金のなかから、妻が毎月10万円をへそくりに回していたケースを想定します。

上記のお金は、生活費として受け渡しがされていたもののため、年間110万円を超えている場合であっても贈与税はかかりません。

しかし、このへそくりで妻が自分名義の証券口座などで株式などの金融資産を購入した場合、生活費ではない用途の金銭の贈与があったとして贈与税の対象になる可能性があります。

贈与税の観点からは、へそくりで金融商品を購入する場合、年間の購入金額は基礎控除額の110万円以内にとどめておくのが適切かもしれません。

4.自ら保険料を支払っていない保険金を受け取った

自らが保険料を支払っていない保険金を受け取った場合も、贈与とみなされて贈与税の課税対象となります。

契約者が父、被保険者が子ども、受取人が妻の場合、保険料の負担者と受取人が異なるため、夫から妻への贈与とみなされるということです。

例外として所得税法施行令第30条第1項では、「身体の傷害に基因して支払を受けるもの」を非課税所得と定められており、以下のような給付金や一時金などは非課税として扱われます。

・通院給付金
・入院給付金
・手術給付金
・高度障害保険金
・先進医療給付金 など

5.自らの持ち分を超えて不動産の取得費用を負担した

夫が不動産の取得費用を全額負担しているが、登記上の名義を妻の単独所有にした場合なども注が必要です。

その不動産の持ち分と取得費用の負担割合が実態と異なる場合、贈与とみなされて贈与税がかかる可能性があります。

どちらか一方が自らの持ち分よりも多く取得費用を支払った場合、多く払ったほうからもう一方への贈与とみなされるということです。

例えば5,000万円の住宅を購入時、夫が5,000万円全額を負担したとします。

しかし持分登記を夫婦それぞれ2分の1ずつで行ってしまうと、取得費用を全く支払っていない妻も2,500万円分の所有権を持つことになり、この点が贈与とみなされてしまうといった具合です。

上記の事例で贈与税の発生を避けるためには、全額費用負担をした夫の単独名義で持分登記をするか、妻も半分の2,500万円を負担するかのいずれかにする必要があります。

夫婦で不動産を購入する際は、贈与税の観点から持ち分割合とその不動産の取得費用の負担割合まで事前にシミュレーションしておくといいでしょう。

夫婦間の贈与で贈与税がかからない5つの事例

夫婦間の贈与で贈与税がかからない主な事例は、以下の5つです。

1.贈与された財産が年間で110万円以下だった

贈与税額は、上述の通り以下の計算式によって計算されます。

そのため1月1日~12月31日までの1年間の贈与財産の金額が基礎控除額の110万円を超えない場合は、贈与税が課税されず税務署へ申告する必要もありません。

贈与税額=(贈与財産の金額-基礎控除110万円)×税率-控除額

夫婦間で財産の贈与やプレゼントなどをする際は、「基本的に年間110万円に収まるようにする」という観点を持っておく安心かもしれません。

贈与税は、受贈者単位で課税されるため、配偶者の両親など他にも贈与予定者がいる場合には、その財産の金額も考慮する必要があります。

例えば妻が同じ年に夫から50万円、親から70万円をもらった場合、合計120万円となり贈与税を納めることが必要です。

2.生活費・教育費に充てる目的での贈与だった

国税庁の定めによると「夫婦や親子、兄弟姉妹などの扶養義務者から生活費や教育費に充てるために取得した財産で通常必要と認められるもの」に対しては、贈与税がかからないとされています。

ここでいう生活費とは、その人にとって通常の日常生活に必要な費用をいい、治療費、養育費その他子育てに関する費用などを含みます。また教育費とは、学費や教材費、文具費などのことです。

そのため生活費として配偶者へ年間110万円を超える金額を手渡していた場合でも、贈与税の対象とはなりません。

ただし上記の「生活費」の定義を考慮すると、通常の日常生活に必要ではない高額な物品は嗜好品とみなされて贈与税の課税対象となる可能性があるため、注意が必要です。

3.居住用不動産の贈与に係る特例を利用した

夫婦間の贈与において適用される特例として「おしどり贈与」というものがあります。

「おしどり贈与」とは、夫婦間で国内にある居住用不動産またはその購入資金の贈与があった場合に一定の条件を満たすことで控除が受けられる制度です。

財産の評価額から最大で2,110万円(配偶者控除2,000万円+基礎控除110万円)の控除が受けられます。

主に以下の場合、贈与税がかかりません。

・配偶者から譲り受けた持ち分に相当する不動産の価格が2,110万円以下の場合
・居住用不動産の購入資金として配偶者から贈与された現金の金額が2,110万円以下の場合

夫婦間で2,110万円分を暦年贈与した場合、750万円の贈与税が課税されるため、大きなメリットを享受できる制度といえるでしょう。おしどり贈与を受けるための条件については、後述します。

4.夫婦共通の口座での資金管理だった

夫婦共通の口座を作って資金管理をしている場合、その口座に生活費や教育費が入出金されている限りは、年間で110万円を超える金額の入出金があった場合であっても贈与税は課税されません。

ただし夫婦各個人の口座から共通口座に高額な資金移動を行った場合など、明らかに生活費以上の高額な金額が入出金されていると贈与とみなされて贈与税がかかる可能性もあるため注意が必要です。

5.離婚成立後に財産を贈与した

離婚が成立した元夫婦間での財産の分与や慰謝料の支払いについては、贈与税の課税対象外のため、贈与税はかかりません。

この事例におけるポイントは「離婚成立後」という点です。離婚における財産分与は、離婚に際しての財産関係の清算や財産分与義務(元配偶者の生活を保障する義務)を受けた財産の受け渡しとなります。

離婚することが夫婦間で決まっている場合でも、離婚成立前、つまり離婚届が役所へ受理される前に贈与が行われると贈与税が課されるため、注意しましょう。

無申告での夫婦間の贈与はバレる?

無申告での夫婦間の贈与は、遅かれ早かれ税務署にバレる可能性が高いため、申告・納税を正しく行いましょう。ここでは、無申告での夫婦間の贈与がなぜ税務署にバレてしまうのか、事例をもとに解説します。

1.銀行口座への振り込みで現金を贈与した場合

銀行口座への入出金は、日付・金額・振込先などの情報が記録されており、税務署は職権で金融機関からこれらの情報を入手することが認められています。

税務調査の際は、金融機関の取引記録の調査に基づいて夫婦相互の銀行口座からの多額の出金について、税務署によって送金先が詳細に調査されるため、隠し通すのは不可能といえるでしょう。

銀行口座の残高が、その夫婦の過去の所得に比べて多い場合には、その資金がどこから来たのかもあわせて調査対象となる場合もあります。

2.不動産を贈与した場合

夫婦間で不動産の贈与があった場合、法務局で行われた名義変更の登記がされた旨が自動的に税務署へ共有されます。

不動産が贈与された旨が明確に記録として残るため、無申告のままだと遅かれ早かれ税務署にバレるということです。

3.へそくりや配偶者のお金で金融商品を購入した場合

金融商品の取引記録は「特定口座年間取引報告書」という形で証券会社から税務署へ提出されるため、「誰がいつどの商品をいくら購入したのか」については税務署に分かる仕組みになっています。

つまり贈与税の申告がなかった場合は、税務署が税務調査を行い、受贈者の職業や年収、資産状況などからその購入資金がとこから来たのかを追及される可能性があるということです。

追徴課税あり!無申告での夫婦間の贈与には注意が必要

贈与税を徴収する権利には、時効が定められています。時効成立後は、国から贈与税の納税について追及を受けません。

贈与税の時効は、原則6年ですが贈与があったことを知りながら故意に納税をしていない場合は7年に延長されます。

贈与税の時効が成立する前に無申告を指摘されると延滞税や無申告加算税、重加算税といった追徴課税が課されたり、懲役や罰金といった刑事罰が科されたりすることがあるため、注意が必要です。

夫婦間贈与でできる節税対策

夫婦間贈与で行える節税対策として「おしどり贈与」による配偶者控除の活用が挙げられます。

おしどり贈与とは、夫婦間で国内にある居住用不動産またはその購入資金の贈与があった場合に一定の条件を満たすことで財産の評価額から最大で2,110万円(配偶者控除2,000万円+基礎控除110万円)の控除が受けられる制度です。

配偶者から譲り受けた持ち分に相当する不動産の価格が2,110万円以下の場合や、居住用不動産の購入資金として配偶者から贈与された現金の金額が2,110万円以下の場合は贈与税がかからなくなるため、積極的に活用しましょう。

贈与税の配偶者控除の適用を受けるための4つの条件

贈与税の配偶者控除の適用を受けるためには、以下4つの条件を満たす必要があります。

1.20年以上の婚姻期間がある
2.国内にある居住用不動産またはその購入資金である
3.贈与された居住用不動産に一定期間以上住み続ける
4.配偶者控除を利用するのが初めて

「国内居住用不動産に限られる」「当該不動産に一定期間以上住み続けなければいけない」など、一定の制約もあります。

しかし2,110万円という控除枠を使える点は非常に大きなメリットといえるでしょう。

離婚した夫婦でも配偶者控除で節税ができる

離婚した夫婦であっても、上記4つの条件を満たしており離婚成立日(役所に離婚届が受理された日)の前日までに贈与が完了していれば配偶者控除の適用を受けることができます。

贈与があった日付は、贈与についての契約書や登記事項証明書などに記載されている日付で判断されるため、その日付が婚姻期間中であれば離婚した夫婦であっても配偶者控除の適用対象になり得るということです。

配偶者控除で贈与税を節税するための手続き

配偶者控除で贈与税を節税するための手続き面について、必要書類および手続きの期限の観点から解説します。

贈与税申告書の作成

贈与税申告書とは、贈与があった旨を受贈者が居住地を管轄する税務署に申告するための書類です。

贈与税申告書は、国税庁のホームページから様式をダウンロードする形でも各税務署に置いてある用紙を受け取る形でも取得できます。

贈与税の配偶者控除のために必要な書類

贈与税の配偶者控除のために必要な書類は、以下の3つです。

1.受贈者の戸籍の謄本または抄本
2.受贈者の戸籍の附票の写し
3.控除の対象となった居住用不動産の登記事項証明書

上記1および2は、「財産の贈与を受けた日から10日を経過した日以後に作成されたもの」という条件があるため、注意が必要です。

贈与税の配偶者控除の手続き期限

贈与税の配偶者控除の手続きは、贈与を受けた年の翌年の2月1日~3月15日までの間に行う必要があります。

贈与税申告書の作成や必要書類の用意をする必要もあるため、余裕を持って手続きの準備をスタートしておくのがいいでしょう。

贈与税の配偶者控除で相続税も節税できる場合がある

贈与税の配偶者控除を活用して、居住用不動産またはその購入資金の贈与を行えば、贈与者の相続財産を減らすことが可能です。

これにより相続時に発生する相続税を節税ができる場合もあります。相続税の計算においては「生前贈与加算」という贈与者の死亡前7年間の贈与は相続財産に加えるルールがあります。

そのため同期間内に行われた贈与は相続財産とみなされて相続税が課税されてしまうのが原則です。

一方、贈与税の配偶者控除の控除額は生前贈与加算の対象外のため、贈与者の死亡前7年以内に行われた贈与であっても相続財産とはみなされず贈与税とともに相続税も節税が期待できるということです。

夫婦間の贈与は金額や方法を加味して適切に

生活をともにする夫婦間では、日常的な金銭の授受やプレゼント、不動産の名義変更といったさまざまな形で財産の贈与が行われることがあります。

しかしいずれも贈与税の課税対象になる可能性があるため、注意が必要です。無申告による追徴課税や刑事罰を避けるためには、しっかりとした贈与税の知識を身につけておく必要があります。

まずは「夫婦間の贈与でどのような場合に贈与税がかかるのか」「どのような方法であれば贈与税負担を軽減できるか」などを理解しすることが大切です。

日ごろから適切な形で贈与を行い、必要なものについては正しく申告・納税を行うように心がけましょう。