「何かは常に過剰から生まれる。偉大な芸術は偉大な恐怖、偉大な孤独、偉大な抑制、不安定さから生まれ、常にお互いのバランスをとる」フランスの作家、アナイス・ニンの名言だ。アナイスといえば11歳から74歳まで60年以上にわたって書き継がれた膨大な日記が有名である。彼女の死後に出版されたその日記から、生前は米文豪ヘンリー・ミラーの愛人であったことが明らかになるなど、エキセントリックな魅力と恋愛に対する奔放さを備えた女性だった。筆者としては、アナイスの自由奔放な生き方を羨ましく思う反面、奔放過ぎて理解に苦しむ面も多々ある。だが、何よりもアナイスの作品に圧倒され、その芸術性に魅了されてきた。小説でも絵画でも音楽でも、芸術性の高い作品に出会ったとき「ハンマーで頭を殴られたような衝撃」と表現されることがあるが、まさにそんな感じである。筆者にとって、アナイスの芸術性は文字通り「衝撃」だった。

ところで、絵画などの芸術作品は富裕層資産の運用先という観点からも注目の分野であるが、興味深いのは「裕福な家庭に生まれた子どもはアーティストになる確率が高い」という論文が2019年に発表されていることだ。その論文によると、世帯年収が増えれば増えるほど、アーティストが生まれる可能性が高くなるという(詳細は後述)。

今回は「富と芸術(Wealth & Art)」をテーマにお届けしたい。

「世帯年収」でアーティストが育つ確率が決まる?

富裕層,美術品
(画像=ivector / pixta, ZUU online)

2019年、南デンマーク大学経済学部のKarol Jan Borowiecki 教授は『創造性の起源:1850年以来の米国の芸術の事例(The Origins of Creativity: The Case of the Arts in the United States Since 1850)』を発表した。この論文は1850年から現代までに収集された米国の人口統計データに基づき、画家やミュージシャン、作家、俳優といったアーティスト(自称含む)の社会経済的背景と地理的位置を比較・分析したものだ。

結果は興味深いものだった。すなわち、世帯年収が1万ドル(約110万円)増えるごとに子どもがアーティストになる可能性が約2パーセントポイント高くなることが判明したのだ。