確定拠出年金の加入者が会社を退職した時、積み立ててきた年金資産をどう扱うかについては、その時が来る前に知っておきたい。加入していた確定拠出年金の種類や退職後の立場によって対応は変わってくる。自分の立場に合った対応の仕方を知ることが重要である。

確定拠出年金における年金資産

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(画像=PIXTA)

確定拠出年金においては、企業型と個人型のどちらでも、加入者自身が資産を運用することになる。ただその資産を給付として受け取れるのは原則60歳になってからで、一部の例外を除いて途中で給付を受けることはできない。しかし基本的に年金資産の移し換えは認められており、退職した場合は別の場所へと資産を持ち運ぶことができる。

確定拠出年金にて資産を運用するのは加入者でも、制度の運営主体は企業型なら会社の事業主、個人型は国民年金基金連合会だ。企業型が導入企業ごとに運営される一方で、個人型は国民年金基金連合会が一括して運営の任を担っている。そのため移換の際、資産は企業と企業へ、企業と国民年金基金連合会、あるいはそれらとほかの年金制度の下で動くことになる。

ここで言う他の年金制度とは厚生年金基金や確定給付企業年金といった確定拠出年金以外の年金制度を指す。厚生年金基金や確定給付企業年金は確定拠出年金の登場前に会社員の老後保障の一端を担っていた。確定拠出年金が整備された以降も引き続き存在し、企業はそれらの年金制度を実情に合わせて導入している。

企業に勤める人は退職後、蓄えられた年金資産を適切に処理しなければならない。確定拠出年金加入者は、場合によっては他の年金制度のことも考慮する必要がある。

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企業型確定拠出年金は退職した時どうなる?どうする?

企業型の確定拠出年金を設けている企業の従業員は基本的に同年金に加入することになるが、企業を退職すれば加入資格は失われる。そうなった時、年金資産の移換先は退職者の状況によって変わる。

自営業者や公務員、専業主婦(夫)になる場合は、個人型の確定拠出年金に移換できる。退職後別の会社に就職する場合は、その企業の年金制度による。企業に企業型確定拠出年金があればそちらへの移換が、企業に企業型がなければ個人型への移換が可能だ。

再就職先の企業に確定給付企業年金などがあり、規約で企業型確定拠出年金の年金資産を受け入れ可能だと定めている場合は、移換することができる。そうでない時は、個人型に移換するなどの手続きが必要だ。

他方、企業型の加入資格を喪失した時、勤続年数が3年未満だと掛金を事業主に返すよう求められる場合がある。これは各企業の規約によるので、事前の確認が推奨される。

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移換手続きの期限

注意が必要なのは、この企業型確定拠出年金からの移換手続きには6ヵ月以内という期限があることだ。厳密に言えば加入者資格を失った日が属す月の翌月から数えて6ヵ月以内の間に、所定の手続きを済ませなくてはならない。

さらに注意したいのは、加入者資格の喪失日についてである。企業を退職した場合、この加入者資格の喪失日はその退職日の翌日になる。

例えば4月1日から31日までのうち、退職日が4月1日から30日のどれかであれば資格喪失日は4月中のため「31日までの間」に収まり、期限は5月から計算して6ヵ月後、10月末となる。だが退職日が31日だと加入資格喪失日は5月1日、期限は翌月の6月から計算して11月末となる。

もし6ヵ月の期限以内に手続きを終えられなかった場合、年金資産は自動的に別の場所に移換される。移換先は加入する確定拠出年金があるならそこへ、そうでないなら国民年金基金連合会の仮預かり口座となる。

しかし自動移換になると、いくつものデメリットが発生してしまう。その1つは手数料の負担だ。移換の際、関係する各機関から手数料を徴収されるうえ、放置しておくと仮預かり口座の管理手数料も負担することになる。

加えて仮預かり口座にある資産は運用できず、その期間は老齢給付金の受給要件になる通算加入者等期間に入らない。結果的に本来算入されるべき期間が算入されず、年金の受取開始時期が遅れる場合もある。自動移換になってしまった後でも状況に合った手続きをすれば運用の再開などにつながるケースはあるため、できるだけ早めの対応が望まれる。

個人型確定拠出年金を退職した時

個人型確定拠出年金の加入対象者は幅広く、日本に住む20歳以上60歳未満の人であれば通常加入できる。具体的には自営業者や学生、フリーランス、会社員、公務員、また会社員および公務員の配偶者などの人々だ。

ただ農業者年金の被保険者や国民年金の保険料免除者、企業型に加入していて規約で個人型への同時加入が認められていない人は加入できない。しかしそうでなければ、たとえ会社に勤めていても加入対象となる。

そのような会社員は、勤め先を退職しても個人型に引き続き加入できる。自営業者やフリーランス、専業主婦(夫)などに立場が変わる場合でも、個人型の加入資格を喪失することはない。退職した後に別の企業に転職する場合は、個人型との同時加入が認められていない企業型の導入企業に勤めない限り、基本的に継続しての加入が可能だ。

企業型から個人型への移換が可能なように個人型から企業型への移換も可能であるため、再就職先の企業に企業型があり、個人型との同時加入ができない場合は企業型へ資産を移すことになる。そのほか、規約に個人型からの資産受け入れを認める旨が記載されていれば、確定給付企業年金へも移換できる。

他年金制度からの退職者による確定拠出年金への移換

確定拠出年金以外の年金制度、例えば確定給付企業年金や厚生年金基金から確定拠出年金へ年金資産を移換することは可能である。脱退一時金を受け取れる人が一時金としては受け取らず移換を選んだ場合、その脱退一時金相当額を確定拠出年金に移し、以後はそこで運用できる。

また企業年金連合会から確定拠出年金への移換も可能だ。企業年金連合会とは退職や転職、制度の終了などによって厚生年金基金や確定給付企業年金から離れた人の年金資産の管理を担う組織である。預かった資産をもとにした年金の支給機能、また別の年金へ移換する機能をもち、確定拠出年金も移換先の1つになっている。

退職時などにおける給付

確定拠出年金において、規定の年齢に達する前に給付が支給される場合はある。障害を負った時に受け取れる障害給付金、死亡時に遺族が受け取れる死亡一時金、そして退職などによる資格喪失時に受け取れる脱退一時金のいずれかだ。ただどの場合も一定の要件を満たす必要があり、あくまで例外的なケースに留まる。

障害給付金は70歳到達前の加入者や加入者であった人が一定以上の障害状態と認められ、さらに一定期間を経過した場合に請求できる。怪我や病気などによって高度障害の要件に該当する状態となった人が、年金もしくは一時金という形で受け取れる給付金だ。

死亡一時金は加入者や加入者であった人が死亡した時、その遺族が受給できる資産残高のことである。死亡者に年齢の制限はなく、受給権のある遺族は一時金として残った資産を受け取れる。

脱退一時金は退職などで確定拠出年金の資格を喪失した時、さらにいくつかの要件を満たしていた場合に支払われる給付だ。年金資産を移換せず、脱退一時金として受け取れるのは、資格喪失が2017年1月以降だと次の2パターンに該当する時となる。

1つのパターンは年金資産額が1万5000円以下で、ほかの企業型および個人型の加入者、運用指図者でなく、加入資格喪失日の翌月から6ヵ月以内である場合だ。

なお運用指図者とは追加での掛金の拠出ができず、現時点で持っている商品の運用は続けられる状態の人を指す。主に60歳到達や経済的理由に伴う掛金の拠出困難などの事情があり、資格を喪失した企業型および個人型の元加入者である。退職した後、この運用指図者を選択できる場合もある。

もう1つのパターンは国民年金保険料の免除者である場合である。さらに確定拠出年金の障害給付金の受給権がなく、通算の掛金拠出期間が3年以下もしくは年金資産額が25万円以下であり、加入資格を喪失してから2年以内で企業型から脱退一時金を受けていない、という要件を満たさなくてはならない。

確定拠出年金と退職金の比較

確定拠出年金は退職後の人々の生活を保障するという点で退職金と共通している。これはもとより退職時に老後の生活保障のために支払われる退職金を年金化したのが企業年金であり、確定拠出年金はその企業年金に属すからでもある。個人型も老後保障を目的とする点は同じだ。

一般的に退職金は企業において就業規則などによる定めがある場合、企業年金制度に加入している人が、受給要件を満たしていれば支払われる。確定拠出年金では加入している人が一定の要件を満たした時、給付金が支給される。基本的にどちらも一定の年齢後の生活を想定したうえでの仕組みである。

だが中途で退職した人への対応は、確定拠出年金と退職金で異なる。確定拠出年金導入企業からの退職時に一時金を受け取れるケースが例外的であるように、確定拠出年金では60歳に到達するまで原則お金は引き出せない。一方で退職金の場合は、定年まで勤め上げた人より金額は減るが、各企業が設けた一定の要件を満たせば退職時にお金が支給される。

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