通信制高校,地方創生,カドカワ
(画像=Webサイトより)

カドカワ <9468> グループが4月、沖縄県うるま市に開校した通信制高校「N高等学校」が、インターネットを活用したユニークな活動で話題を集めている。授業は自宅のパソコンやスマートフォンで視聴し、遠足や部活動にはゲームを活用、職業体験は世界遺産の和歌山県高野山でお坊さんになる。

さらにネット教育の拠点「Nセンター」を鹿児島県長島町など3カ所に開設し、地方と都市部の教育格差是正にも乗り出す計画だ。うるま市など受け入れ側の自治体は地域振興に大きな期待をかけている。

ネット授業とユニークな課外授業が目白押し

N高校によると、校名の「N」にはネットやネクスト、ニュートラルなど多くの意味を込めた。4月の新入生は全国の1482人。15、16歳の生徒が多いが、最高齢は86歳。単位制の広域通信制高校普通科で、3年以上在籍して全必修科目を含む74単位以上を取得すれば卒業できる。

生徒は自宅で1単元につき約20分の映像教材を視聴して学習、テストとレポートの評価で単位認定を受ける。生徒1人ひとりに担任がつき、さまざまなアドバイスをする。

年5日程度のスクーリングはうるま市の本校のほか、東京都渋谷区の代々木ゼミナール本部校、大阪府大阪市のバンタンデザイン研究所大阪校など全国11カ所で受けられる。

生徒の才能を伸ばすことを第1に考えており、課外授業もユニークだ。ゲームのプログラミングは、カドカワグループのエンジニアが指導するほか、文芸創作講座は森村誠一さんら現役の作家が講師を務める。有名予備校講師による大学進学授業もある。

学校行事も従来の常識を逸脱させた。遠足は人気ゲームの「ドラゴンクエストX」を活用、オンラインゲームのフィールドにリアルタイムで集合、コミュニケーションを取りながら目的をもって団体行動する。

部活動のサッカー部もゲームの「ウイニングイレブン」をプレーする。顧問は元日本代表の秋田豊さん。まるで冗談のような内容だが、通信制高校の課題といえる友人づくりをどうするか考えた結果だという。

このほか、職業体験で高野山の僧侶になるほか、米スタンフォード大学のサマープログラムに参加したり、地域の農業を体験したりするなどネット以外の様々なリアル体験も充実させた。

うるま市は地方創生に熱い期待

生徒の中には、社会問題になっている不登校や引きこもりの子供たちもいる。彼らの多くはカドカワグループのニコニコ動画やライトノベル利用者と重なっている。彼らが入学しやすい環境を作り、高校生のうちになりたい職業を見つけられるよう考えた結果が、N高校の形となった。

本校の校舎は2012年に閉校したうるま市の伊計島にある旧伊計小中学校を活用している。うるま市を本校所在地に選んだのは、廃校利用で自治体の協力を得られたこともあるが、豊かな自然や伝統文化が残る環境が、教育の場所として望ましいと考えたからだ。

伊計島は沖縄本島沖にある面積1.72平方キロで、住民約300人。沖縄県自体は移住者と全国一高い出生率で人口増加が続いているが、離島部は過疎と高齢化が深刻さを増している。伊計島も人口のざっと7割が高齢者だ。

特に伊計小中学校が消えたあと、島のムードは暗く沈みがちだった。そんな過疎の島に開校されたN高校は、地元からすれば地域振興の点で大きなプラスに見えている。

うるま市企画政策課は「短期間でも若い人たちがスクーリングで伊計島にやってくる。宿泊施設の稼働率が上がるだけでなく、農業や漁業体験で地元の人と交流してくれる。島の存在を知ってもらい、PRするには打ってつけだ」と喜んでいる。

公営学習塾のNセンターも長島町など3カ所に近く設置

さらに、鹿児島県長島町、群馬県南牧村、佐賀県武雄市で順次スタートする教育拠点のNセンターも地方創生に大きな期待が集まっている。

NセンターはN高校と地元自治体が共同で設置する公営の学習塾のような存在だが、高校のない地域の高校生に地元で学べる教育機会を提供することが目的だ。N高校が使う双方向型課題教育アプリで予備校の授業を配信するとともに、専任の助言者が自習をサポートする。

キャリア教育の面からはプログラミングや文芸小説の制作などN高校向けの講座をネット配信。他地域のN高校生、都会の若者らが宿泊し、地元の産業体験をする体験型学習の拠点としても利用する。

カドカワグループのドワンゴ広報部は「教育機関がない地域の子供たちにネットを活用して教育の場を提供し、都市部との教育格差を是正したい」と意欲を見せる。

第1弾として7月にオープンする長島町では、役場の空きスペースを改造してNセンターに利用する。2007年に長島高校が閉校して以来、中学を卒業すると子供たちが町外へ出るようになった。

長島町総務課は「町外の高校へ進学した子供たちが町へ戻らず、人口減少と高齢化を深刻化させている。教育拠点が誕生することで将来、地元に戻る若者が増えてほしい」と期待している。

教育内容はネタと思えるほど突き抜けているN高校だが、学校のない地域に進出した点は地方創生の1つの形といえるだろう。N高校やNセンターで学ぶ高校生たちが、過疎に苦しむ地域に朗報をもたらしてくれるのだろうか。

高田泰 政治ジャーナリスト
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。

【編集部のオススメ記事】
「女子アナ人気」でもハッキリ 業績好調の日テレ、停滞フジとの差
日本のGDP1割占める三菱グループ 中核「金曜会」から三菱自は脱会?
過去の大型IPOに見る「LINE上場の成否」
東京23区「平均年収ランキング」圧倒的1位は902万円の…